哺乳類遺伝子の非翻訳領域の保存性

○緒方博之、藤渕航、金久實(京大・化研)

Substitution rates in noncoding regions in mammalian genes
H.Ogata, W.Fujibuchi and M.Kanehisa

遺伝子の発現制御機構の多様性が明らかになるにつれ、非翻訳領域の機能的 重要性が認識されている。タンパク質の進化速度がその機能的制約の程度を 反映して多様であるように、非翻訳領域においても、その進化速度が遺伝子 の種類により異なることが期待される。我々はヒト・旧世界ザル・ネズミの 非翻訳領域を含む塩基配列が決定されている遺伝子のうち核酸配列データベ ース GenBank に記載されている利用可能なものについて、相同な遺伝子間 で塩基配列のアラインメントを作成し配列間の相違度を見積もった。ポリA シグナル配列を除く3'非翻訳領域の相違度はヒト/旧世界ザル間の平均値 で 6 % であり、これはコード領域におけるアミノ酸変化を伴わない同義 座位の相違度の平均値 8.5 % と比較すると小さい値をとっており、3'非翻訳 領域における機能的制約っは同義座位よりも大きいという小数の遺伝子 による従来の解析を支持している。しかしその値は 0 % から 20 % 程度の 間に広く分布しており、同義座位の相違度との間に統計的に有意な相関が みられた。同様にヒト/ネズミ間及びマウス/ラット間でのイントロン領域 の塩基配列の相違度と、同義座位の相違度との間に弱い相関が見出された。 同義置換率が遺伝子の種類に依存してばらつきがあることをふまえ、今回 見出された非コード領域と同義座位の相違度の分子進化学的な意義について 考察する。また、同義座位との比較において高い保存性を有した非翻訳領域は、 同義座位とともに保存性が低い非翻訳領域よりも機能的制約が高い可能性 があるので、該当する遺伝子についての考察も合わせて報告する。

(日本生物物理学会第33回年会1995年9月23〜25日、23日発表)