代謝パスウェイの解析-酵素の階層分類からみた機能・進化

○緒方博之、金久實

Analyses of Metabolic Pathways - Function and Evolution Based on Classifications of Enzymes
H.Ogata, M.Kanehisa

[目的]京都大学化学研究所では、生体内反応パスウェイの中でも比 較的理解の進んでいる代謝経路のデータベース化を進めている(KEGG: Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)。我々はこれを基に、代謝経路の秩序構造及 び進化機構の全体像を解明することを目指している。本研究の目的は以下の二点に ある。(1)二つの酵素の機能的関係を用いた代謝経路の解析:酵素の機能 は、酵素反応の種類、制御様式(時期/発現量)等により特徴づけられる。代謝経 路上でこのような酵素の特徴の現れ方を見ることにより、代謝経路の秩序構造を解 析する。(2)二つの酵素の進化的関係を用いた代謝経路の解析:酵素間の 進化的関係が代謝経路上でどのように現れるかを調べることにより、代謝経路の進 化と遺伝子の進化との関係を明らかにする。 [方法]本研究では、二つの酵素の代謝経路上での距離として、両酵素を 最短で結ぶ代謝物質数(最短経路長)を導入した。これは代謝経路上で最隣接した 二酵素のデータ(二項関係)より Floyd のアルゴリズムによって効率良く計算さ れる。また酵素は、それが触媒する反応の種類(EC番号)により階層的に分類され る。我々は、二つの酵素反応の類似度を、EC番号を用いて四段階に定義した。 [結果](1)全ての酵素ペアについて、両酵素の最短経路長と酵素反応 の類似度を調べた結果、経路上遠距離にある酵素のペアに比べ近距離にあるペア中 に、より多くの類似酵素反応があることが分かった。また、酵素反応が類似してい ない二つの酵素の場合でも、同一の発現制御下にある大腸菌のオペロン遺伝子の場 合は、経路上近距離で機能発現することが明らかになった。(2)経路上最隣接し た二つの酵素について、両酵素が同一のスーパーファミリーに属する頻度が期待頻 度よりも多い傾向がみられた。また、このように、進化的に関係していて経路上で も接近している二つの酵素は、機能的にも極めて類似していた。

(日本生物物理学会第34回年会1996年11月7〜9日、7日発表)